※ちっさいけいごのおはなしです。
※とってもねつぞうなのでちゅうい!
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辺り一面、雪景色だった。
「ゆきまつりに行きたい」
大して面白くもないだろう夕方のニュース番組を、けいごは熱心に見ていた。
テレビには、雪で作られているらしい、真っ白い像が幾つも映し出されている。
可愛らしいキャラクターものから外国の有名な建物、大きなすべり台など様々だ。
もはや全国的にも有名となった北国ならではのイベント、雪祭りの様子が映し出されていた。
祭りの楽しげな雰囲気は勿論、普段余り見る事のない雪がけいごの興味を強くひいたらしい。
空色の瞳をきらきらと輝かせながら振り向き、けいごは自分の希望をストレートに伝えた。
おねだりされたのは、けいごを目に入れても痛くない程に溺愛しているけいごパパである。
「よし、パパが連れて行ってあげよう」
にっこり笑いながら即答する。愛するけいごのお願いを、けいごパパが断る筈もなかった。
これにより被害を被るのはけいごパパの直近の部下達、また自身も例外ではないのだが、
嬉しそうに頬まで染めたけいごの愛らしい笑顔の前には、実に些細な事なのである。
一夜明け、けいご達は雪祭りの会場にいた。
けいごの小さな足を覆うブーツは、「滑って転ばないように」と驚異的な早さで新調した物だ。
強固な滑り止めが施された靴底でざくざくと雪を踏み締めるけいごは、酷く興奮している。
冷たい空気に触れた頬はピンクに染まっていたが、寒さの所為だけではないらしい。
「パパ!雪がいっぱい!」
「ああ、雪がいっぱいだね!」
興奮顔でそう叫ぶけいごに、こちらはこちらで実に嬉しそうな顔で返事をするけいごパパ。
勿論けいごパパは、ピンクに染まったけいごの頬に釘付けで積もった雪など見てはいない。
にこにこしながらけいごを促し、整然と並ぶ雪像を眺めに連れて行った。
きょろきょろとせわしなく視線を巡らせながら、けいごはきゃあきゃあと歓声を上げる。
そんなけいごを眺めては、けいごパパはでれでれと表現するに相応しいだらしない顔をする。
平和である。
「楽しかったね、けいご。じゃあ、何か温かい物でも食べに行こうか」
一通り雪祭り会場を回り終えると、けいごパパはそう切り出した。
けいごは余り感じていないようだが、好い加減に身体が冷えてきているだろう。
しかしけいごは、どうも物足りないといった顔で振り返る。
「もっとほかのも見たい」
何処までも貪欲なけいごだった。
雪祭りは何ヵ所かで行われているので、夜のライトアップに向けて移動出来ない事もない。
しかし、流石にけいごの体力を考えると……と、けいごパパは少し心配になった。
この興奮具合では途中で切り上げられそうにない。はしゃぎ過ぎて翌日ダウンの危険性がある。
上手いことけいごを満足させ落ち着かせるには。逡巡したのち、けいごパパはこう言った。
「うーん、じゃあ、雪の抜け道を通ろうか」
「ゆきのぬけみち?」
ぱっと瞳を輝かせるけいご。興味津々といった様子だ。
「そう。何処につながってるかな?行くかい?」
「行く!」
大きな声で、元気良く。
けいごはちょっぴり謎めいたけいごパパの言葉に、ちいさな胸を高鳴らせながら答えた。
けいごパパに促されて車に乗ったけいごは、途中から目を閉じるように言われた。
不思議に思いながらも言う通りにする。時々、「まぁだ?」とけいごパパに催促しながら。
一度こっそりと目を開けてみたが、すぐに見付かり指摘されてしまったので、
それからはおとなしく我慢して目を閉じていた。少しだけ足をぶらぶらさせながら。
車が止まっても「まだだよ」と言われ、目を閉じたままじっとしていると、
先に降りたけいごパパがドアを開けて、けいごを抱き抱えて降ろした。そして、そっと囁く。
「さあ、目を開けてごらん、けいご」
漸くお許しが出た。どきどきしながら、けいごはそっと目を開く。
眩しくてすぐにはよく見えない。それでも懸命に辺りを伺うと、けいごはまず気付いた。
自分の立っている両側が、高くそびえ立った雪の壁だ。それは長く長く前に続いている。
そして前方、ずっと目をこらした先には、小さく車や人が通るのが見える。
「ゆきのぬけみちだ!」
途端に興奮したけいごは、その場で軽く跳びはねたり雪の壁を手の平でぱたぱた叩いたりした。
「ここは特に滑りやすいからね、ゆっくり気を付けて歩くんだよ」
けいごの反応ににこにこしながら、けいごパパはそれだけ言った。
実は何のことはない、唯の路地である。
雪国では度重なる除雪により、時に2メートル以上の雪山が出来る。
場所によってはそれが長く途切れず、その間をほんの数十cm幅だけ歩道として除雪される。
ちいさなけいごには、すっかり視界を遮られまるで空まで届きそうな雪の壁に感じられたのだ。
長く長く続く、雪の抜け道。それは、けいごにとって初めての体験だった。
不思議な光景に胸をどきどきさせながら、けいごは言われた通りに慎重に歩いていく。
「ね?ちょっと面白いだろう?」
「うん!」
けいごの楽しそうな様子に、益々頬が緩むけいごパパだった。
けいごのゆっくりとした歩調ではあったが、何百メートルもある訳ではない。
時間にすれば、ほんの数分といったところだっただろう。
やがて、抜け道の出口が見えてきた。
けいごが残念に思いながら歩いていくと、目の前に真っ白くて大きな物が現れて止まった。
タイミングを合わせて迎えに来させた、この土地のけいごパパの部下の車のようだ。
「けいごの為に特別に用意した雪祭りカーだよ!さあ乗ってごらん?」
ものは言い様である。
それでもけいごには効果があったようだ。歓声を上げると、うきうきと乗り込んでいった。
「楽しかったね、けいご」
「うん!」
「折角北海道まで来たし、明日はしろくまさんを見に行こうか」
「うん!」
何だかんだではしゃぎ疲れたのだろう、けいごはものの数分で寝息を立て始めた。
けいごパパに寄り掛かり、安心しきった様子で眠っている。
すやすやと愛らしい寝顔を、けいごパパはにまにまといつまでも眺めていた。
後書き:
発端は↓この風景です。
もっと高い山になっていたのですが、うっかりしていて溶け掛けしか撮れませんでした。
ちっさいけいごは不思議ロードに激興奮すると思うのですよね。
路地と言うか、別にこの脇は車道もあるし、本当に何十メートルも山が続く訳でもなく、
途中に十字路が開けたり片側が普通に民家だったりしますが、そこはまあ、ご愛嬌で。
ファンタジーを読むつもりでどうぞ(真顔で)。
色々が色々でちっさいけいご溺愛のけいごパパ話にまで妄想が発展しました。
ついでにその前に雪祭りにも興奮させておきました。シンもちっさいけいごと戯れたい。
と言うかけいごパパが子供を甘やかし過ぎの駄目親代表みたいな感じですみません。
ママも割愛ですみません。パラレル、パラレルです、よ……。
因みにけいごパパ妄想を某さんに話したら(一応伏せてみる)、
「忍足お兄ちゃんで良いじゃない!」と返ってきました。
いよいよ変態臭い話で良ければけいごパパを忍足お兄ちゃんに置き換えてみて下さい★
忍足お兄ちゃんの行く末が心配です。
2009.3.3 シン