元来、俺は障害があった方が燃える性質だ。
一筋縄ではいかない事ほど、それを成し遂げた時の達成感は強い。
そして例えどんなに難しい事でも、俺様に不可能な事などは無い。
当然だろう?
「シン、今日こそはスカートを穿いて貰うぜ」
「え!?遂ににゃんべを披露してくれるの!?」
俺が言うなり、ぱっと嬉しそうな顔をしてキラキラと瞳を輝かせるシン。
予想通りの言葉と態度に、ぐっと言葉を詰まらせながらも一拍後に頷く。
「……ああ、やってやる。俺様の本気を侮んじゃねえぜ」
一度決めた事だ。有言実行あるのみ。
この日の為に俺は、非の打ち所の無い「にゃん」を研究してきたのだ。
出来得る限りの可愛らしい声音、可愛らしい首の傾げ方。
普段は余り周りに見せる事はしねえが……俺様は努力家なのだ。
今度こそ文句は言わせねえ。あんな屈辱はもう二度と味わわねえぜ……!
甚だ不本意ではあるが、全てはシンのスカート姿を拝む為だ。
「約束だ。俺がやったらお前も絶対スカート穿けよ」
「勿論!約束!」
「……その前に、ポケットの中で準備してるボイスレコーダーを止めろ」
「………」
「俺様のインサイトを見くびんじゃねえ」
「……中々やるじゃねえの、あぁん?」
わざとらしく左手を顔面に翳しながら、右手でレコーダーを取り出すシン。
真似すんな。……全く、油断も隙もあったもんじゃねえ。
いざその段になると、矢張り相当な羞恥心が襲ってくる。
当然だ。こんな下らなくて阿呆臭くて恥かしい事、本来なら絶対やらねえ。
しかしこの数秒だけ我慢すれば、夢にまで見たスカートが待っているのだ。
普段は嫌がって絶対穿かないシンだが、きっと似合うに違いない。
何を穿かせてやろう。ひらひらのフレアも良いし、タイトなミニも可愛いだろう。
……そうだ、こんな少しばかり恥をかくぐらい、スカート姿を拝めるならば。
「よし、いくぞ……!」
「あっちょっと待って!」
そんな決死の覚悟をした俺の出鼻を、いとも簡単に挫く制止の言葉。
何なんだお前は。こういうのは勢いでやらねえと無理だっつうのに。
「跡部はねえ、ちょっと私を待たせ過ぎたので、その分……」
言いながらシンは自分の鞄を漁り始め、それからにっこりと振り向いた。
笑顔だ。満面の笑顔だ。物凄く、性質の悪い笑顔だ。
嫌な予感しかしない。
「これを着けてやって貰います」
予感的中だ。
満面の笑顔でシンが取り出したのは。
猫耳の付いた、カチューシャ。
「難易度上がってんじゃねえかよおおおぉぉ!!!!!」
「え、だってこれぐらいのペナルティは当然だよね」
俺の怒号に少しも臆する様子はない。
寧ろ「何聞き分けの無いこと言ってるのかしらこの子は」くらいの勢いだ。
しかも、何だこれは、明らかにシンの手作りじゃねえかよ。
厚紙を重ねて立体的に形作った所に、黒くてふわふわの布が貼られ、
両耳の間、カチューシャの中央にはご丁寧にピンクのリボンまで付けてある。
何なんだお前は。ボタン付けも出来ねえ癖に無駄な所で力使うなよ。
思わず脱力してしまい、床に両手をつき辛うじて上半身を支える。
「お、お前は本当に俺の事が好きなのか……?」
「当然だろアーン!?だからやって貰いてえんじゃん!!」
それちょっとおかしくねえか……!?
とは最早突っ込めない程ぎらぎらした目付きで熱弁された。怖い。
「それにほら、跡部が好きだと思って、スカートももう準備済みなんだよ」
男の浪漫でしょ?
と、又もにこにこしながら取り出されたのは、セーラー服。
シンもしっかり覚悟して準備してたのか。少し気分が浮上する。
しかし、広げられたそれを見ていて……ふと違和感を感じる。
「……けどよ、それ、お前が着るには随分とでかくねえか……?」
「まあ元は跡部用に買っ……んっんんっ、何でもない」
咳込む振りして何誤魔化しやがったー……!!
男のっつーかシンの浪漫じゃねえのかアーン!?
「ほらほら男なら小さい事は気にせずがつんとやりなよっ」
普段なら気持ちの良い叱咤も、今だけは納得なんて出来ない。
だが俺が油断していた隙に、シンはちゃっかり猫耳を着けようとしてくる。
「ちょってめ…っ」
「……それに、可愛く出来たら、私も好きな事してあげるよ?」
にっこりと微笑み掛けながら囁かれる、誘い文句。ぴくりと肩が揺れた。
「……悪魔かてめえは……」
「何とでも言え〜」
本当に、何なんだ。お前は。
何で俺はこいつの事なんか好きなんだろう。
元来、俺は障害があった方が燃える性質だ。
一筋縄ではいかない事ほど、それを成し遂げた時の達成感は強い。
そして例えどんなに難しい事でも、俺様に不可能な事などは無い。
ずっと、そうやって生きてきたのだ。
その後、俺が「にゃん」で及第点を取れたか、シンはスカートを穿いたか。
それは貴様らの想像に任せる。
……いいか、訊くなよ。絶対にだ。
後書き(?):
半端な言葉は要らない(再び)(彼氏目線バトン参照)。
忍足のポジションが相当好きです。あれだ、オタク繋がりだから仕方ない。
余りに迸ったので(色々が)怒涛の勢いで勝手に続編を書いてしまいました★
この痛々しさがいっそ楽しいですよね★如何になりきるかが重要です。
つかこれシンの変態具合が物っ凄くよく伝わってきますよね。秀逸にも程がある!
しょんぼり跡部やにゃんべ妄想にハアハアする所とか、自分の日記かと思いました。
きよのさん、素晴らし過ぎるシン跡を有難うございました……!
因みにシンは、そんなに頑なにスカートを穿かない訳でもありません(笑)。
2008.6.1 シン