抜けるような青空だ。
つい最近まではもっとぎらぎらした色をしていた気がしたのに、
何処かすっきりとしたような水色は、見上げたずっと向こうまでを埋め尽くしている。
「めっちゃ気持ちええ秋晴れやんなあ、跡部」
隣を歩く忍足が、のんびりとした声を上げる。
天気の良い休日。
散歩をしようと提案したのは忍足だ。
緩やかな歩調で、線路沿いの歩道を二人で歩いている。
「あ、すすき」
「いよいよ秋だな」
ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、脇をすり抜けて行く自転車や電車をいくつか見送った。
電車が過ぎれば喧騒もなく、時折吹く風は、爽やかで心地良い。
隣の忍足も、気持ち良さそうに目を細めている。
穏やかな、気分だ。

「一休みしよか」
自販機を見付けた忍足がそう言って、缶ジュースを二本買った。
線路と歩道を隔てている柵に背中を預け、プルトップを開ける。
「たまにはこういうんもええなあ」
「じじくせえな」
忍足の言い方がおかしくて、思わず笑ってしまった。
こちらを向いた忍足が切り返してくる。
「む。こういう時間も大事なんやで。命の洗濯や」
言うほど生きてねえだろ。また笑った。
忍足も一緒に、小さく笑った。
さっき、空を見上げた時のように。穏やかに、目を細めて。
自分を見詰めるその表情に、少しだけ鼓動が跳ねた。
「あー…けど、ほんまに…」
視線を外すと、忍足はまたゆっくりと空を仰ぎ、
「きれいやなあ…」
そう、呟いた。

「跡部?」
そっと声を掛けられた。
ぼうっとしていたのかも知れない。首を傾げ下から覗き込むようにされた。
両手で持った、いくらも残っていない缶に視線を移す。不自然にはならなかっただろうか。
「…何でもねえよ」
それだけ言った。
忍足は少し怪訝そうにしながらもそれ以上は何も言わず、また空を見上げた。
さらさらと風が流れた。まだ陽は高い。

――忍足の。
空を映す瞳の方が、綺麗だと思った、など。
とても言えはしないけれども。





後書き:
忍跡プチ合わせで作った無料配布より。
忍足は忍足で跡部のおめめの色みたいで綺麗やなとか思っているに違いないですよ!にこ!

2010.10.10 シン




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