ふと目が覚めると、すぐ間近に忍足の寝顔があった。
後から起きるのは大抵自分で、こんな風に忍足の寝顔を眺めるのは中々珍しい。
規則正しい寝息を立てているが、ばさばさと長い前髪がまばらに顔に掛かり欝陶しいので、
シーツの中に潜らせていた腕を持ち上げ、その前髪を梳いてやった。すっきりと顔が出る。
(……安らかな寝顔ってか……しかし熟睡だな、こいつ)
普段ポーカーフェイスに微笑を浮かべている口の端は下がり、極薄く唇が開いている。
ゆるんだ眉の下、涼しげな切れ長の双眸はふわりと閉じられ、その印象を甘くしていた。
(……まあ、整ってはいるよな)
こいつを格好良いだの何だのと騒ぐ女子は少なくない。人当たりの良さも要因だろうか。
すっと通った鼻筋を指先でなぞる。くすぐったいのか、忍足は顔を背けて俺の手から逃れた。
そのまま落ち着いたらしく、少しするとまた静かな寝息が聞こえてくる。
俺と逆の方に顔を向けてしまったので、頬のラインが判るだけで表情はさっぱり見えなくなった。
何となく、面白くない。
ので、寝癖だらけの黒髪をわしゃわしゃと掻き交ぜたり、引っ張ったり、ちょっかいを掛けてみた。
すると、んあぁ、と奇妙な呻きを小さく上げながら忍足が身じろぐ。それでも起きる様子はない。
ちょっと面白くなってきた俺は、上半身だけ起こして呻く忍足の顔を覗き込んでみた。
そして、すんでのところで何とか噴き出すのを堪える。
(不っ細工…!!)
何とも言い難い、おかしな風に顔をしかめていたのだ。むにゃむにゃと聞き取れない寝言付きで。
クールで格好良いと騒ぐ女子どもに見せてやりたい。
その男は俺の隣でへんてこな顔して呻いてるんだぜ、ぼさぼさの頭して。
喉の奥で笑いながら、乱暴に扱っていたのをあやすように、優しく梳くようにして髪を撫でる。
(……まあ、誰にも見せてなんかやらねえけどな)
そして覗いたこめかみの辺り、綺麗な生え際に、キスをしてやった。
こいつは、俺のもんだ。





後書き:
素敵プチ満載のスパークに行けない悔しさをバネにSSを書こう・第2弾(長)。
物っ凄く久し振りに忍跡文を書きました。まあ何だかんだでこの子、忍足の顔が大好きですよ。

2008.9.5 シン




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