関矢堂発行物「きみのえがお」のちょっぴり続きです。
※未読の方にはさっぱりな内容なのでご注意下さい。





君の形の良い、綺麗なピンク色の唇が、に、と弧を描く。
日頃はきりりと吊り上がっている眉尻も、ほんの少し、穏やかに下がる。
ああ、あの跡部君のこんな、

「奇遇だな、――俺もだよ」

きっと俺は今、物凄く情けない顔をしているんだろう。
へなりと下がった眉も、このどうしようもなく込み上げてくる、
ぐちゃぐちゃとした気持ちに呼応するようにぐらぐらと揺れる瞳も、
堪えていないと、それこそ情けない声まで漏れてしまいそうな、
僅か震えながら噛み締められた唇も、
それは情けなく君の前に曝け出されているのに、
それを隠す事も跡部君から顔を背ける事も、出来なかった。
だって君から目を背けるなんて、出来なかったんだ。

どうしようもなく、好きだと思った。
「……好き。大好き。跡部君、大好き」
だから、馬鹿の一つ覚えみたいに、ひたすら繰り返した。
どうしようもなく、胸がいっぱいで、
気の利いた言葉も見付からないまま、とにかく繰り返した。

「……ばーか」
きゅ、と跡部君を両手で力いっぱい抱き締めて、
(何故か身体が震えて、そんなに力が入っていたか判らないけれど)
何度も呟く俺に、跡部君は、いつものように悪態をついた。
ひどく、優しい声だった。
変だよね、さっき俺は君に散々、酷い事をしたのに。
目の前の君は、こんな風に俺に、穏やかに笑ってくれるんだ。


そう、いつだって君にはこんな風に笑っていて欲しいと、
そう、思ってたんだ。





後書き:

とんだポエマー千石で失礼致しました。
何だか突然書きたくなり、物凄い勢いで書き上げました。まあ短いですが。
もう情けない千石で良いよ……!男前跡部で良いよ……!(せんべです)
本をお持ちの方は「ああーあ…」とでも思って頂ければ(何)。

2006.10.17 シン




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