暖かな布団の中でうとうととしていた所を、携帯電話の着信音で起こされた。
枕元に置いていたそれを手に取ると、画面の確認もそこそこに通話ボタンを押す。
誰からかなど、どうせ見なくとも判るのだ。
「Happy birth day,Kabaji.」
電話越しに滑らかに発音されるそれは、自分のよく聞き慣れた声だ。
「ウス……有難うございます……跡部さん……」
ふふ、と、聞くだけで自分までくすぐったい気分になるような。嬉しそうな、小さな笑い声。
「今年も、一番に祝ってやった」
ひどく楽しそうに、誇らしげに囁かれ。やっぱりくすぐったい気分になった。

まだ幼稚舎の頃、自分の誕生日を教えた最初の年の暮れ。
「3日は俺様の家に来い!せいだいなたんじょうパーティを開いてやる!」
1つ上の幼馴染みはきらきらと瞳を輝かせながらそう誘ってきた。
自分の誕生日を一番に祝ってくれると言うのだ。とても嬉しくて、胸がどきどきした。
しかし当然と言えば当然だが、自分を可愛がってくれている両親が何もしない訳がない。
今年もその前も、母がケーキやごちそうを作ってくれ、父からはプレゼントを受け取った。
盛大な訳ではないが、心からの。きっと来年もまたお祝いしてくれるのではないだろうか。
幼いながらもそれを既に予感していた自分は、拙い言葉で一生懸命説明した。
気持ちはとても嬉しいが、その日は両親からもお祝いを受ける事、だから家には行けない事。
いつでも自分の少ない言葉から多くを汲み取ってくれる彼だ。すぐに理解してくれた。
「そうか、そうだよな……お前のパパとママだってお祝いしたいもんな」
一番最初におめでとうって言いたかったんだけどな
少し暗い顔をしてぼそりと呟く彼に、ひどく申し訳なくなりおろおろしながら顔を覗き込む。
すると、に、とこちらに笑いかけ、
「しょうがねえ、来年の一番はパパとママに祝って貰え」
そう言われた。
彼は実は本当にがっかりしていたようなのだが、その時の自分は気付く由もなく。
笑顔に安堵するばかりだった。

今にして思えば、違う家で暮らしているからにはどの道一番にというのは難しかったし、
家族水入らずに特に拘りがあった訳でもないので、彼を自宅に招けば丸く収まったのだろうが。
当時はそのようには思い至らなかったし、彼の「一番」はどの道それでは駄目だったようだ。
誰よりも先に、自分が祝いたいと。
それが判ったのは、自分の携帯電話を買い与えられた翌年の誕生日からだ。
毎年、必ず。日付が変わって間もなく電話が鳴るようになった。
携帯なら起こすのはお前だけで済むし、間違いなく俺が一番最初だろ?
祝う相手が電話で叩き起こされるのは問題ではないらしい。自信満々な声でそう告げられた。
少々突飛ではあるが、幼い頃から変わらないこの真っ直ぐな好意が、自分はとても嬉しい。
くすぐったくて、あたたかい。

電話は、おめでとうと言われるだけで、あとはそこそこにすぐ切れる。
さっきと同じように枕元に携帯電話を置き、布団を被り直した。
ほこほこと身体が温かい。心地良い眠気が降ってくる。
もっと大人になったら、こんな真夜中でも普通に起きていて、電話に出られるかも知れない。
もしかすると電話ではなく直接、一番におめでとうと言って貰えるようになるかも知れない。
眠る直前のふわふわとした意識の中、そんな事を考えて、楽しみだと思った。





後書き:
とっても今更ですが……。
当日も心の中では跡部様ばりに盛大にお祝いしていましたよ!
今までで一番、跡部景吾を表現出来たと思います。基本的にあの子、阿呆。
好き(知っています)。
かばじおたんじょうびおめでとう!

2009.1.15 シン




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