跡部はよく俺の髪に触ってくる。
長く真っ直ぐ伸びた黒髪を、下ろしている時は延々と梳くように撫でたり、
1つに束ねている時は毛先をくるくると指先に巻き付けたり解いたり、
口元に寄せて匂いをかいでみたりする(多分、かいでいるんだと思う)。
洗って乾かしたばかりの髪を、わしゃわしゃと掻き雑ぜてみたりもする。
勿論、物凄く楽しそうにだ。俺が嫌がってもお構いなしだ。
今だって、跡部の部屋で並んでソファに座ってテニスのDVDを見ながら、
隣の俺の髪にするすると指を絡ませてはもてあそんでいる。
何なんだ。
すい、と上半身ごと頭を揺らして、その手から逃れた。
「……んだよ、」
「そりゃこっちの台詞だ。何だよいつまでも」
俺が避けた途端に不機嫌な顔を向けてくる跡部に、言い返す。
少しの無言のあと、跡部はひそりとした声で聞いてきた。
「……お前は、あれか、何かいい美容室のシャンプーとかを取り寄せて使ったりしてんのか」
「は?いやお前じゃあるまいし。普通にスーパーに売ってるやつだよ」
「……そうか」
そう言うと跡部は、またテレビに向き直った。
膝の上に乗せられた手は、手持ち無沙汰げに指と指を摺り合わせたりしている。
……こいつって。
「なあ、跡部、」
「……んだよ」
「お前ほんと、俺の髪、好きなのな」
「……、……嫌いじゃあねえな」
にんまり笑うと、今度は俺が跡部の髪をわしわしと撫で回してやった。
案の定、跡部は物凄く嫌そうな顔をした。
跡部って、面白い。





後書き:
素敵プチ満載のスパークに行けない悔しさをバネにSSを書こう・第3弾(長)。
跡宍も実は初挑戦です。どちらかと言うと逆好きなので。これ、どちらとも取れますね。
軽い話が書きたいなあともさもさしていたら、こんな感じになりました。

2008.9.17 シン




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