変わりたい、変わりたくない。ずっとそんな葛藤が続いている。
一人になることなど、慣れている筈なのに。





「は……っん…!」
息を詰め強張った身体で、樺地の咥内に昇り詰めた欲望を注ぎ込む。
零さぬよう懸命に咥え続ける樺地を眇めた視界に映しながら、吐精の余韻に、小さく身体を震わせた。
どくどくと、自分の鼓動が響いて煩い。
樺地の喉からは、口で受け止めたそれを嚥下する音が控え目に響く。
そんなもの、吐き出せば良いのに。そう言った事があったが、大丈夫だと首を振られただけだった。
最後まで丁寧に飲み込んでから、樺地はそっと唇を離した。
唾液と精液の纏わり付くそれと、扱いていた為に少し赤くなった樺地の唇とが糸を引く。
自身の、ねっとりと濡れ力を失った様は酷く情けなく、滑稽に映った。いや、実際、滑稽なのだろう。
こんな、自分よりずっと大きく逞しい男にはしたなく脚を広げ、そこに触れられ悦ぶ、浅ましい身体など。

「跡部さんに……触れたい、です……」
俺が好きだと、俺に触れたいと。
唇を微かに震わせながら、黒々とした瞳を頼りなさ気に揺らめかせながら。
思いを告げてくる相手を確かに、愛おしく思ったのに。
今はこの感情に、恐れを抱くばかりだ。

横たわる、引き締まった身体に手を這わせていくと、樺地の口から切なげな吐息が漏れた。
張りのある胸の隆起を撫でながら、その中心で硬くしこる突起を親指で潰すように捏ねる。
「……っふ、う…っ」
ぴりぴりと快感が走っているであろう樺地のここは、俺が樺地に教えた場所だ。
ぷつりと硬いその感触を確かめるようにつつきながら、もう片方の手を樺地の下肢に伸ばすと、ぬるりとした先端に触れた。
「……っう、あ、っ」
緩く扱く手の動きに合わせて出て来る低く掠れた声に、その身を自分に委ねるこの男が愛しくて、堪らなくなる。
好きで、好きで、堪らない。
何度も、胸を充たす度に強くなるこの感情が、しかしその度に自分に思い知らせるのだ。
いつかは離れる時が来るのだと。

どんなに、どんなに深く繋がっても決して1つになどはなれないまま、熱が引けば互いの身を離すよりほかないように。
優しく触れてくるその手も、真っ直ぐに注がれる熱を帯びた視線も。
俺を好きだと告げる唇も無防備な肢体も、向けられるその想いも。
俺の、焦がれるようなこの想いも。
やがてはその熱も冷め、互いから目を逸らすように現実を見据え、
全てを過去のものに追い遣りまたその先を生きていくのだろう。
今互いを満たしているこの感情が偽りなのではなく、唯、そういうものなのだと。そう、知っているだけだ。
時間が流れていくのを止める術などないように、「想い」が薄れていくのもまた、抗いようの無い「変化」なのだと。
それは身体に刺さり抜けなくなったほんの小さな棘のように、どうということもないまま意識の片隅からひっそりと主張し、
取り去る事も出来ずふとした拍子につきりと痛みを伴なわせる。暗い予感がぴたりと背中に貼り付き振り払えない。

そんな風に変わってしまう自分も、相手も。見たくなどないのに。

いずれ失せていく想いならば何故、時を重ねる毎に愛しさが募っていくのか。
お互いしか見えない程、こんなにも想い焦がれていても。それでも、ずっと変わらずにいられるとは思えないのだ。
熱を失った自分――あるいは樺地――を想像する度、腹の底に何かが詰まったようにぐうと重くなりうまく動けなくなる。
まるで自分自身に裏切られるかのような感覚は、この身をすうと凍らせた。
それは、恐怖だ。



「……跡部、さん……?」
深く繋がったそこに熱い吐息を漏らしながらも、気もそぞろに力無い目をしていた俺に気付いたのだろう。
樺地は、気遣うような眼差しを向けてきた。その目はひどく優しく、胸の中がじわりと温かくなる。
「……何でもねえよ、気にすんな」
自然と浮かんだ笑みのまま囁くと、短く切り揃えられた黒髪をぐいと掴み引き寄せ、唇を重ねた。
応えるように開かれる唇に嬉しくなり、より深く口付け熱い舌を絡ませる。
どちらのものともつかぬ唾液が溢れ顎を伝って落ちていく、その感触すら心地良い。
再びゆっくりと動き出す。身体を揺らす度に、ずん、と重い快感が広がり、互いの身体を小さく震わせた。
快感に耐えるように唇を噛み締めるも、抑え切れなかった声が、互いの口から漏れ出る。
切なげに掠れた相手の声に自身の熱も掻き立てられ、その噛み締められた唇に指を当てるとそろりと撫でた。
安堵するかのように力が抜かれ薄く開く唇に、愛しさが込み上げ再び口付ける。
互いの熱を交わすこの行為は、確かに相手を実感しこの胸を熱くさせるのだ。

いっそのこと今、離れてしまえば。変わってしまうお互いを見る事もないのだろうか。
そんな風に思いながら、しかし出来る訳がなかった。
離れたくない。考えを巡らせては、その度に結局はそこに行き着くのだ。
暗い予感に、つきりとした痛みが伴なうとしても。

汗の浮いた樺地の額にそっと口付け、それからその頭を掻き抱く。
ほう、と息をつき遠慮がちに擦り寄ってくる樺地に、ふっと笑みを零しながら。訳もなく、涙が出そうになった。
離す事など出来ない。
それは俺の、愚かなエゴだ。





後書き:
跡樺でも樺跡でも読めるように表現には気を付けたつもりですが、大丈夫だったでしょうか(奇妙な危惧)。
恋人愛から家族愛への変化はまだ思いもよらない中坊男子です。そうそう、この子らまだ中学生ですよ(酷)。

2008.5.8 シン




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